1.権利関係(民法)⑥贈与・請負・委任
宅地建物取引の契約の種類では、「売買」「賃貸借」の他にもたくさんありますが、他に重要なのが「贈与」「請負」「委任」の3つです。また例によってケーススタディを用いてそれぞれ解説します。
贈与
贈与も契約になります。では、ケーススタディを始めましょう。
Aさんは、新しい自動車を購入するため、Bさんに今まで乗った車をあげる(無償)ことにしました(贈与者)。Bさんは免許を取り立てで、お金もないしまだ自動車を持っていなかったので、もらうことにしました(受贈者)。そして口頭のみで同意(諾成)し約束しました。後日、AさんはBさんにその自動車を引き渡し(片務)ました。
以上で贈与契約は成立しました。双方の意思が合意すれば口約束でも契約は成立します。自動車に限らず、こういったことは、意識していないだけで日常で行われていますよね。
そして口約束の場合はまだ自動車を引き渡し(履行)ていなければ、撤回が出来ます。契約書をきちんと交わした場合は、撤回ができません。
それでは次にそのケースを見ていきましょう。
Bさんは、自動車をもらってから税金やメンテナンスにお金がかかるので、取り消したいとAさんに言いました。Aさんは自動車は2台もいらないのでお断りです。
さて、これはBさんは取り消すことができるでしょうか?答えはNGです。口約束でも履行が終わった部分は、撤回ができないのです。
ここまでのまとめ
- 「贈与」とは「無償契約」、「片務契約」、「諾成契約」である。
- 書面は必要ないが、口頭約束の場合は撤回可能。但し履行が終わった部分は撤回できない。
- 書面にて契約した場合は撤回できない。
贈与の効力
- 財産移転義務…目的物の引き渡し、登記など 上記の例では、「引き渡しと名義の変更」になりますね。
- 贈与者の担保責任…無償なので、目的物、権利の瑕疵または不存在について責任を負わない。ただし、贈与者がその瑕疵を知っていて告げなかったときは、責任を負わなければならない。上の例では、「自動車のオイルが漏れている」「自動車の名義が他人の名義になっている」など。
特殊な贈与
- 定期贈与…一定の時期に一定の給付おすること。例えば、「BさんはCさんに毎月5万円を支給する。」といったもの。
- 負担付き贈与…受贈者に一定の負担をおわせること。例えば上記の自動車の例で、「自動車をあげるから通院の送り迎えをすること。」といったこと。
- 死因贈与…贈与者が死亡したら効力が生ずる。例えば「Aさんが死んだら自動車をBにあげる」といったこと。「遺贈」と似ているが、贈与の場合は双方の合意により成立し、遺贈の場合は遺言により遺贈者が単独で成立します。この違いを理解しておきましょう。
請負
請負にも色々ありますが、代表的なものに建築請負契約があります。注文住宅を建てたことがある人はこの「建築請負契約」というのを行ったことがあると思いますが、ここではその建築請負契約を例にして解説します。
Aさん(注文者)はBハウスメーカー(請負者)に、C土地に家を建ててもらい、その対価を支払う約束をしました。(双務契約、有償契約、諾成契約である)
これが請負の例です。請負人は、期限通りに請け負った仕事を終わらせて、引き渡さなければならない。
完成した家の所有権については、材料の供給者によって分けて考える。
- 注文者となる…材料の全部または主要な部分を注文者が供給した場合(特約なき場合)と、建物の完成前に請負代金が完済またはそれに準ずるようなときは引渡しの前に帰属する。
- 請負者となる…材料の全部または主要な部分を請負者が供給した場合(特約なき場合)
請負人の担保責任
請負人の担保責任は、⑤項の売主の担保責任と同じですので参照してください。
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1.権利関係(民法)⑤売買 売主の契約不適合責任 買戻しの特約
委任
委任とは、当事者の一方(委任者)が、相手方(受任者)に対して、
- 「法律行為」をすることを「委託」し、
- 受任者がこれを承諾する
ことによって成立する契約のことです。ではケーススタディで解説します。
Aさん:「Bさん、すみませんがボールペンを1本、買ってきてもらえませんか?
Bさん:「ええ、おやすい御用です」
これで契約成立です。そして「委任」は原則無償ですが、特約がある場合は有償となり、その場合は後払いが原則です。
ただし、上記のケースのように「ボールペン代」として費用が発生し受任者が委任者に「手持ちがないので、ボールペン代先に下さい」と、委任者が請求した場合は委任者Aさんは前払いをしなくてはなりません。
そして受任者Bさんは、無償・有償にかかわらず、この職務を「自分のためにすることや、自分の財産におけるのと同一の注意」に比べて高度な注意を払ってボールペンを購入しAさんに引き渡さなくてはなりません。これを「善管注意義務」といいます。
受任者は委任者に信頼されて委任されていますので、原則最後まで自分自身が行わなくてはなりません。ただし、「①やむを得な場合②委任者が承諾した場合」は代わりの者(副委任)に依頼できます。
それから、委任者から委任した内容に関する請求があった場合、
- いつでも委任事務処理の状況を報告しなければならない。
- 終了後は、遅滞なく結果及び経過を報告しなければならない。
ケーススタディに置き換えますと、
Aさん:「あれ?Bさん、ボールペン買いに行ったきり戻ってこないな。電話してみよう」
Aさん:「もしもし?Bさんですか?だいぶ時間がたちますけど、何かあったんですか?」
Bさん:「実は近くのコンビニでボールペンが売り切れていまして、隣町まで行ってきました。あと5分で戻ります。」
Aさん:「そうだったんですね、ありがとうございます。」
となります。
そして委任事務を処理するにあたり、受け取った金銭や物、果実(地代、家賃など)がある場合には委任者に引き渡さなければならない。
※受領した金銭を自分のために使った場合は、使った日から利息を払ったり、損害があれば賠償しなければならない。
上のケースで云うと、ボールペンを自分で使っちゃった場合は賠償を、預かっていたボールペン代のお釣りを遣っちゃった場合、すぐに返さなかったら日数に応じて利息を払ったりしなければならないってことですね。
最後に委任契約の解除ですが、委任者、受任者のどちらかでも、いつでも、「理由を要せずに」解除できます。
ただし、相手にとって不利な時期の解除は、原則として損害を賠償しなければなりません。
まとめ
贈与・請負・委任の相違点をまとめておきましょう。