1.権利関係(民法)⑦債務不履行 契約の解除・危険負担 債権者代位権
この項は、各論が相互に関連しあっているため、全体像をつかむように学習する必要があります。相互関係を理解するようにしていきましょう。
債務不履行
みなさんは、日常で物の貸し借りや金銭の貸し借り、あるいは物を売ったり買ったりをすることがあると思います。これらは全て「契約」にあたり、物や金銭は返したり、引き渡さないとならないですよね。それらを「債務」と呼びます。
前述のような契約において、約束を守れない、果たせないことについて故意(わざと)または過失(うっかり)がある場合「債務不履行」といいます。(ただし不可抗力の場合は責任が生じません。)りこ
債務不履行には履行遅滞・履行不能・不完全履行の3種類があります。
履行遅滞
履行が可能であるのに、履行期が過ぎても履行をしないこと。以下例文です。
家の売主Aさんは、約束している引き渡し時期を過ぎているにもかかわらず、買主のBさんに家の引き渡しをしませんでした。
これで債務不履行成立です。Bさんは、Aさんの財産に対して強制執行を行うこと、損害賠償の請求を行うこと、契約の解除を行うことが出来ます。
- 解除…相当な期間を定めて催告し、期間内に履行しなければ解除できる
1-①.債務者の帰責事由は不要
1‐②.期間経過時に不履行が軽微な場合は解除できない - 損害賠償…損害があれば損害賠償もできる
2-①.債務者の帰責事由が必要
履行遅滞になるためには、Aさんのように履行期を過ぎて遅滞に陥ったことが必要であるが、その遅滞に陥る時期は、履行期の種類によって異なります。下記の例文で解説します。
ⅰ.確定期限の定めのある債務
売主のAさんは、2月12日までに家を引き渡す約束をしていた
その日時(2月12日)を過ぎた時点で履行遅滞となります。
ⅱ.不確定期限のある債務
売主のAさんは、自分の父親が亡くなったら家を引き渡す約束をしていた。
債務者である売主のAさんが、自分の父親の死亡したのを知った日から履行遅滞となります。
ⅲ.期限の定めのない債務
買主のBさんは、売主のAさんに家を引き渡すよう請求しました。
債権者(Bさん)が履行の請求をしたとき=債務者(Aさん)が履行の請求を受けた時から、履行遅滞となります。
履行不能
売主のAさんは、自分のタバコが原因で家が火事になり(過失)、買主のBさんに家を引き渡すことが出来なくなりました。
売主のAさんが履行不能となり、買主のBさんは損害買収の請求と契約の解除が出来ます。
- 債務者の解除…催告なしに直ちに解除できる
1‐①.債務者の帰責事由は不要 - 損害賠償…損害があれば損害賠償もできる
2‐①.債務者の帰責事由が必要
不完全履行
上記のように、家屋の様な不動産売買において不完全履行となった場合は、「契約不適合責任」の問題になります。なのでここでは違うケースで解説しましょう。
DさんはEさんに、ある物件の調査を依頼しました。しかしEさんは手を抜き、その物件の一部しかしていませんでした。そのおかげであるものを売却することができなくなり、損失が出てしまいました。
このように、一応の履行はしたが、それが不完全であったということで、Dさんは追完(改めてきちんと履行する)が可能であるときは、完全履行の請求又は追完請求と遅延による損害賠償請求ができ、追完がそもそも不可能な場合は、履行に代わる損害賠償の請求ができる。
損害賠償
債務不履行となった場合、その責任追及手段として損害賠償の請求をすることが出来ます。損害賠償は金銭による支払いが原則ですが、それに限らない。
損害が発生したことや、損害額がいくらかについては、請求者の側で立証する必要がある。その請求できる額は債務不履行により通常生じるであろう損害と定めています。
損害賠償額の予定
契約時に当事者が、あらかじめ債務不履行の場合の金額を決めて決めておくことです。そうすれば相手方の債務不履行の事実を証明すれば、それだけで賠償額を請求できます。これにより以下の利点があります。
- 損害を受けたことを証明する必要がない
- 損害額をめぐる当事者間の紛争防止
- 裁判所も賠償額を増減することが出来ない
金銭債務の特約
- 不動産のようにその物が滅失すれば引き渡しが不能になるが、金銭債務は履行不能になることはあり得ない。 よって、常に履行遅滞である。
- 金銭債務については、債務者に故意・過失が無くても債務者は損害賠償責任を負う。
- その代わりに「金銭債務の不履行」の場合は、賠償額は一定の率、原則として法定利率年3%(2021の請求ができる。
過失相殺
債務の不履行に関して債権者にも過失がある場合には、裁判所もこれを考慮し損害賠償額を増減したり、場合によってはゼロにすることができるというもの。

契約の解除
契約の解除により、契約は最初にさかのぼって(遡及効といいます)無かったことになりますので、各当事者は原状回復義務といって、目的物や金銭を返さなければなりません。
例えば、その目的物が賃貸マンションだったとします。契約から解除の間に家賃が発生していればその分も返還しなければなりません。金銭の場合は利息をつけて返さなければならないのです。
それから、その効果は第三者にまで及びません。ここでケーススタディです。
Aさんは、Bさんに土地を売却しました。その後Bさんは第三者のCさんにその土地を売却し登記も終わりました。その後、Bさんが債務不履行となり、契約を解除することになりました。
さて、Aさんから土地を返してもらえるでしょうか?答えはNGです。第三者のCさんには効果が及ばないのです。
危険負担
契約締結後、引き渡しまでに目的物が当事者の責任に帰すことのできない(追及できない)理由によってそれが無くなってしまったり、壊れてしまったりその損失(危険)をどちらの当事者が負担すべきか、という問題がでる。これを危険負担という。債務者に故意・過失がないことが前提になります。債務者に落ち度がある場合は、「債務不履行」となります。ではケーススタディです。
Aさんは、Bさんに家を売却する契約を結びました。が、不幸なことに引き渡す前に落雷で火事になってしまいました。
この場合は、まだ引き渡しが終わっていないため、Aさんが危険負担をすることとなります。なのでBさんは契約を解除できます。考えてみれば当たり前の様ですが、旧民法の場合全くの逆で、契約後は引き渡しが終わっていなくても、買主が負担することになっていたのです。
では次のケーススタディです。
Aさんは、Bさんに家を売却する契約を結び、引き渡しを1週間後としていました。しかしBさんは、自分の都合で引き渡し日を先延ばししている間に、地震で家が倒壊してしまいました。
これは買主Bさんに落ち度がありますので、Bさんが危険負担をすることになりますので、Bさんは代金を支払わなければなりません。
では、もう一つケーススタディです。
Aさんは、Bさんに家を売却する契約を結び、引き渡しを終えましたが、Bさんに登記をまだ移転していませんでした。そして台風で家が吹き飛ばされてしまったのです。
さて、これもBさんが危険負担をします。あくまで引き渡しが危険負担の基準ということを抑えておいてください。
債権者代位権
債権者が自分の財産を守るため、債務者の代わりにその権利を行使し、債務者の財産を維持・充実を図る権利が認められており、この権利のことを債権者代位権といいます。これではわかりにくいのでケーススタディで解説します。
Aさんは、Bさんにお金を10万円貸していました。さらにBさんはCさんに15万円を貸していました。Aさんはお金が必要になり、Bさんにお金を返してもらうよう、言いましたが、Bさんは返してくれません。なのでAさんは直接Cさんに10万円を返してもらうようBさんの代わりに催促しました。
これが債権者代位権の行使です。
まとめ
民法は言葉が難しいのであり、言っていることはそんなに難しいことではありません。実際の試験問題はA、B、Cが登場して「誰が勝者か」「誰を保護するのか」という問題が多いです。早いうちに慣れておくのがおススメですので、是非過去問にチャレンジしましょう。